ろくろ首の女
(秋田県横手市)
昔、横手のお城に岡本という侍がおりました。
宿直[とのい]の晩に、からめ手(城の裏門)を目指して、
登城していました。
ちょうど夕方で、小雨模様の寂しく
何とも薄気味悪い道を歩いていました。
城の方から、傘もささずに若い女が下りてきました。
“おかしいこと、こんた時こんたとこサ、おなごがいるはずねべな
(おかしいなあ、こんな時間こんな所に、女なんているはずがないが)”
と思いました。
すれ違ったとき、女は岡本の顔を見るとにやっと笑ったのです。
土谷和夫氏
“キツネっこか、タヌキっこに違いねえ
(これは、キツネかタヌキに違いない)”
何かぞくっとしたのですが、先を急いで、
からめ手への坂道を登って行きました。
何かがいる気配を感じて、後ろを振り返ると、
女の首だけがぐぐっと延びてきて、
顔が目の前にあった。
鎌首をもたげた人の首だ!
女は岡本の顔を見てにやっと笑ったんですね。
“うわっ、これだば、キツネっこかタヌキっこだあ~
(コイツはキツネかタヌキだ)”
岡本は振り向きざまに、
抜刀して一太刀お見舞いした。
首はコロコロと坂道を滑り落ちた。
宿直の役を済ませて、翌朝、うちに帰りました。
“やれやれ、昨日だばいろんたことあったなあ
(昨日はいろんなことがあったなあ)”
と、思いながら、
玄関の戸を開けると女房が迎えに出た。
岡本が
「まんづ、ゆうべな(実は、夕べね)」
と、女房に話しかけたとき、
「ふふふ、こんたおなごだったんでねえが~(こんな女だったでしょう?)」
と、怪しい笑みを浮かべた。
・・・次の瞬間、女房の首はろくろ首となって、
岡本に飛びかかったのでした。
どてんした岡本は、どで~んと、そこに倒れ込んだ、と、こういう話です。
とっぴんぱらりのぷう
キセルをくわえるろくろ首(北斎漫画、1834年)
黒沢せいこ氏
土谷氏は、この横手城に伝わる昔話を
祖母から聞いたという。
さて、ろくろ首は、お馴染みの
“首がするすると延びて細くなり
その先に顔があるもの”、
これはすぐイメ-ジに浮かびますね。
もう一つ、顔が胴体から完全に分離して
浮遊するものと二種類ある。
本篇は前者であるが、分離型の昔話は長野にある。
落ちぶれた名家の武士が、
4人の家来を連れて山家[やまが]に暮らす。
一夜の宿を乞う旅人を夜な夜な
身体から離れた5つの首どもが喰う話である。
また、有名な「稲生物怪録絵巻」(1749年)にも
リアルな分離型のものがいくつか図示されている。
スーちゃんは、“いったい、ろくろ首って
延びきったら何メ-トルあるのかな”と思う。
まさか10mもはね、と思わず呟いたが、そこは妖怪、
実力を出して、にょろにょろと結構延びるような気もする。
魔球を投げてくるのが妖怪のつねだから。
モジリアニの絵を見ていたら、あれっ、
女の細い首がだんだん延びて行くような気がするよ。