万平魚屋と山んば

(山形県新庄市)
斉藤しづえさん 写真
斉藤しづえさん

「新庄の仲山町に、万平魚屋って、
今でも名前あっけど。その話だべな」

と斉藤しづえさんが語ったのは、
「3枚のお札」と筋がよく似た、
昔話の中では代表的な話の一つである。

「この話、16分かかる」

というのでスーちゃんは、
座りなおしてじっと聞きました。さて・・・

昔、昔あったけど

(新庄の昔話の出だしの定型です)。

昔、仲山町サ、万平って居たっけど

(昔、仲山町に、万平っていうのがおりました。
・・・話は、このように続きますが、以下は共通語にします)。

まだ若い男で、籠に魚を入れて毎日のように売り歩いていました。
ほぼいつもは、仲山町を出て吉沢から萩野へ、
さらに仁田山まで来ると、売り切れるのでした。
この日は、何か、皆、忙しいせいか、
商いが奮わず、売れ残りがたくさん出ました。

甚次郎坂[じんじろ]峠から金山[かなやま]を越えたいけれど、
どうしようかな、と思案しました。というのは、

“甚次郎坂[じんじろ]サ、山んばいるという話、聞いた。
まさか、いないとは思うが、どうしたらいいのかな
(まさか居ねえべども、行ってみたらいいのか、何したらいいのがな)
まだ、昼間だもの、山んば、出てこないだろうな(出はらねえべな)

と、迷いを吹っ切って、二枚橋に入り甚次郎坂を登って行きました。

山んばが出るか、出るかと恐る恐る歩いていると、

「万平! 万平! 万平待て」

と、叫ぶ声が聞こえました。

万平がひょいと振り向くと、
ああ、困ったことに、
山んばがつっ立っていました。

困った、困った!

万平をぎろぎろにらむと、

「万平、魚、食わせろ。背中に背負っているニシンを食わせろ
(食[か]せろ。背中サ、しょったニシン食せろ)

と、言うのです。

万平は背中の籠からニシンを一本抜くと、
バーンと後ろにブン投げて、走りました。

しかし、山んばは、あれもんで(と、しづえさん)
ニシンを一匹ワラワラとむさぼり喰うと、すぐに追いかけてきました。

「万平、もっと食わせろ。
食わせねば、お前を喰うぞ(食せねば、ニサば喰ってしまうぞ)

(にさ、とは、目下の者に直接話しかける言葉で、福島県では、二者と聴いた)

万平は、担いでいたニシン一束[いっそく]を背中から抜いて、
バーンと後ろにブン投げたけれど、
山んばはたちまち喰ってしまったのでした。

山んばの野太い声がまた、追いかけてきます。

“これア、困った。籠なんかしょって走ってらんねえ”

万平は、荷物を入れた籠ごと、どさっと放り出して、走った走った。

さすがの山んばも魚のいっぱい詰まった籠だから、
なかなか喰いきれなくて手間がかかっているようです。

その間に、万平はどんどん(しづえさんは、6回繰り返した)
峠を越えて、下り坂を走った。

向こうの道のわきで仲下[なかしも]の人達が、
[かや]刈りをしているのが見えました。
屋根を葺くために、茅を束ねて、
茅千鳥[かやちどり]にして林のように立てていた。

茅の写真
茅 (屋根葺きに使うのはヨギという茅の仲間)
冬の茅葺き屋根 写真
冬の茅葺き屋根
(写真提供:田辺 洋)

「オラ、山んばに追いかけられて、困っている。隠してくれないか?
(オラとこ、今、山んばボワッテいて、困っている。隠してくんねえか)

「隠れろ、隠れろ。ここサ、立てた茅つるべ(茅千鳥)サ、隠れろ」

そう言いながら、
茅を束ねて筒形に立てた中に隠してくれました。

「今度はいいようだ(今度はいいべな)

と、安心したのも束の間、
運の悪いことに、わらじの紐が片っぽ解けて
茅に引っ掛かってしまったのです。

山んばがほどなくやってきて、叫びました。

「お前ら! 万平魚屋を見なかったか?
(ニサだ! 万平魚屋、見つけねが?)

「見つけねえ」

「こっちサ来た。きっとここサ、隠ったはずだ。
どこサ、隠ってねえか?」

山んばは、ふんふんと鼻を鳴らして、嗅ぎ回った。

(しづえさんの鼻鳴らしは迫力がありましたね)

「やや、万平の臭いする。こっちだ、こっちだ」

って、万平の隠れた茅千鳥に近寄ってきた。

“困った、困った。オレ、食われてしまう(オレ食れてしまうど)

って、もう片っぽのわらじを脱ぐと、
反対側からさっと出て、後も見ずに逃げだしました。
裸足で足は痛いけれど、
喰われるよりはマシだと思いながら。

一方、山んばは、茅千鳥のところで、

「ほれ、わらじが見えるぞ、万平出てこい
(ほら、わらじ見る。万平出はれ、万平出はれ)

と、言いながら、
わらじの紐をきゅっと引っ張った。

万平が出て来るはずはないですね。

「出て来ないのなら、こっちから行くぞ
(出はれねもんだば、こっちから開けてけっぞ)

言うが早いか、茅千鳥をつかんで、ばーんと地面に投げつけた。

「あれ、わらじだけか。万平はどうした!
アイツ、どこへ逃げたんだ?
(あれっ、わらじばりで、万平どうした? 万平のヤロー、どこサ逃げたべ?)

山んばは怒って、
茅千鳥の林を、バーン、ブイーンと何十となくブン投げた。
居ないことがわかると、
万平を追いかけて山の中へ走って行った。

万平魚屋は山の中をひたすら走って、
もう気が変になるほど走って行きました。

目の前に、おっきな川が・・・
川の水はどうどう流れていたんですね。

流れの速い最上川 写真
流れの速い最上川

その側に走り寄ると、舟を作っている人がおりました。

「舟造り、舟造り。オレを隠してくれないか、
山んばに追いかけられているんだ
(オレどこ、どうか、隠してきんねえか? 山んばに、ぼっかけらってたよ)

「そんなら、舟の間に入って隠れろ
(何だ、ほんだこったら、舟の重ねている中サ、入って行げ)

急いで隠れたときに、手拭を舟の釘に引っかけてしまったのです。

またまた運が悪いですね。

万平がするりと舟の中に入ったとたん、
山んばが息を切らして、追いついてきました。

「舟作り、万平が来なかったか?(来ねかったか?)

「誰も来ねかったな」

と、舟作りがとぼけると、

「来ねじゃねえ、来たはずだ! 万平の臭いする、ホレ」

山んばは、ふんふんと鼻を動めかして、
やたらめたら、そこら中を嗅ぎまわった。
ふと、舟のへさきに手拭が引っかかっているのを見ると、

「万平、舟の中サ、隠れていたな!(隠っていたな!)

と、怒り心頭、
一番上の舟から次々に、バーンバーンと投げつけて、万平を探した。

万平は、命からがら、一瞬早く舟から逃げ出ると、
川の側の大きな杉の木にワラワラと登った。
杉の重なりあった葉蔭に隠れると、山んばが、
はあはあ言いながらやってきた。

「どこへ行ったんだ!(どこサ、行ったべ。あの万平。くそ)

山んばは、万平をぼっかけて走りに走り、
しょっぱい魚をうんと喰ったので、さすがに喉が乾いた。
水を飲もうと川面を覗いたとたん、

「おおっ、万平、何だや、この杉の木サ、隠っていたのか!」

と怒鳴りました。

万平は、

“オラ、今度捕まれば最後だ。杉の木、何ぼ登ったとて、
てっぺんまで登ったとて・・・”

と、暗い気持ちで胸がいっぱいです。

山んばは、舌なめずりしなから、言いました。

「オレも登ってみるぞ。
いいか、万平。オレも登ってみっぞ」

「婆さんには、こんなところまで、登れるか?
登れないだろ(婆[ばば]なの登れっぺや? 登れねべや、こんたとこサ)

山んばは、思わず答えました。

「何! 何ぼでも登れるぞ(何ぼも登れる)

「万平、どうやって登ったか?(何たことして登ったや?)

「あのナ、川原の石ば、左の袖サ、いっぺ。
右の袖サ、いっぺ。背中サ、いっぺ。
[ふところ]サ、いっぺ入れて、登って来たのだ。
ほんで、婆、登れっかや?」

万平は、うんと吹いてやりました。笑い半分でね。

“万平のヤローに、こんなことで、負けてはおれぬ
(こんだことで負けていられね)

と、頭に来た山んばは、
左の袖に、一杯、右の袖に、一杯、懐[ふところ]にも、
ぎっしり石を詰め込んだ。
帯を締めているので、ご丁寧に、帯の間にもうんとね。

(しづえさんは、帯のあたりをポンと叩いた)

「どれ万平、こうやってか?いま、登るぞ
(こげんしてか?んだら、登ってみっぞ)

言うが早いか山んばは、ゆっつゆっつ、ゆっつゆっつ登り始めた。

困った、困った・・・
今度こそ、山んばに捕まえられる、

山んばの恐ろしい手がもう少しで届きそうになったときでした。
万平は、ふと頭上にある杉の枯れ枝に気が付いて、
バリッと折って、
山んばの延ばした手をばっちり叩いた。

山んばは、身体中が石だらけ、
身動きのできない重さだったので、川にまっさかさま。
ジャポンと落ちたまま、
浮き上がっても来ずに流されて行きました。

“ああ、えかったや、助かったや”

と、万平はそろそろと大木から降りました。

あたりは、すっかり暗くなって、
自分がどこにいるのか、何もわかりません。
ずっと向こうに、灯火がポツンと揺れたような気がして、
そこに向かって歩き始めました。

今晩、泊めて貰わねば。

薮を越えて、痛む裸足のまま、どうにかこうにか辿り着いたのでした。
戸を叩くと、愛くるしい娘(めごい娘)が出てきた。

「自分は、万平魚屋という者だが、
山んばに追いかけられてここまで来た。
山んばは、川で流されていった。
自分はようやくここまで逃げてきたのだ
(オレ、万平魚屋って言うなんども、山んばにぼっかけられて・・・
こうこうしたと、いきさつを話した・・・
山んば、川サ、流さって行ったども、ここまで、オレ、逃げて来たのだ)

「その山んばとは、私のおばあさんかもしれないね
(山んばちゅうのは、オレの婆かもすんねえぜ)

思わず万平は、

「あれっ(何だワ!)

と、驚きの声を上げました。

「山んばは死んだかもしれない。
あんたのおばあさんだなんて、悪いことをしたなあ
(山んば、死んだかもしれねえ。おめえの婆だもんだなんで、悪いことしたな)

すると娘は不思議なことを言いました。

「いいんです。私のおばあさんは、
どんなことがあっても死なないのだから。
早く上がって、隠れたら?
(いいのだ、オレの婆なの、何だことしたて、死なねえサゲて。
まんず、早く上がって、隠れろワ)

娘は、焼いた餅があるから、それを食って腹ごしらえをしてから、
火棚の上に上がって隠れろ、
と言いました。

ついで次のように注意した。

おばあさんも火棚の上で寝ると言うかもしれない。
火棚の綱を引っ張った時にかちっと音がするときは、
綱が切れそうなので上がりはしない。
茅の実を4つあげるから、
婆さんが綱を引っ張ったときに合わせて、
茅の実を一つずつ、かちっと噛むように。

その時、山んばが戻ってきました。

「うう、寒い寒い寒い。うう、寒い寒い寒い。
娘や、万平魚屋を追いかけたが、今日はひどい目に遭ったんだ
(あねっこ、万平魚屋サ、ぼっかけて、今日、ひどい目に遭ったや)

万平が聞いていると、山んばは、そんなことをするからだよ、
と娘にたしなめられています。

山んばは、火をどんどん焚いて当たらせてくれ、と娘に言いつけて、

「オレ、万平魚屋から魚盗ってな、
飯は食いたくないから、餅を焼いてくれ
(オレ、昼の間、万平魚屋から盗った魚食ったけ、
ママ食へねハゲて、餅焼いて食へろちゃや)

と言いました。
しばらくすると、身体が温まってきて、
横になった山んばは、こくりこくりと居眠りを始めた。

万平が上から覗くと、餅が、ぷくらぷくらと膨れてきて、
旨そうな臭いが漂ってきた。
腹もへっていたし、がまん出来ないので、

“これア、オレ、一つ食ってけっか”

と直ちに行動に移したのでした。

茅葺きの屋根から茅の穂を一本抜くと、
目の下で美味しく焼けている餅に
ジャケッと突き刺してつるつるっと引き上げた。

こうして餅は、次々に万平の腹の中に収まりました。

目を覚ました山んばは、
餅が一つも無くなっているので、娘に

「おめえ、どこやった? 皆食ったのか」

と、詰めよりました。

娘は、うまいことを言ってごまかしています。

「おばあさんは、いやしんぼだから、
上の口から食わなくても、下の口から食ったんじゃないの?
(婆なの、卑しんだもんだ。上の口から食わねだって、
下の口から食ったかもしんねえ。下の口から食ったねがや)

そうかな、と山んばは思って、下の口に聞きました。

「食ったか、食わねか?食ったか?」

って。

年寄りの山んばの身体は、しわだらけなので、
下の口はしわくちゃです。
山んばが身体を動かしながら、

「食ったか、食わねか? 食ったか?」

と尋ねるたびに、
くちゃ、くちゃと音がしました。

「あねっこ、食ったと言っているよ(食った、食ったって言ってるべや)

「そうでしょ、おばあさん。
おばあさんの下の口はいやしんぼだから、食べたんでしょう。
こういう時には、早く寝るのか一番だよ
(だべ、婆。婆の下の口、卑しハゲて、食ったなべな。
こういう時ちゃ、ワラワラと寝た方が一番、いいもんだ)

山んばは、

そうだな、石のからとに入って寝るのがいいか、
火棚で寝ようか、

とぶつぶつ言っています。
娘は、すかさず

「火棚の方がいいよ。寒いからね
(火棚の方、いいようだな。寒いハゲ)

と言いました。ついで

「火棚の紐が切れそうだから、塩梅[あんばい]を見るために、
引っ張ってから寝たら?おばあさん
(火棚の紐、切れそうハゲて、塩梅見に、引っ張って寝ろ、婆)

と言いました。

山んばは、火棚の紐を一本、引っ張ってみると、
カツンと音がした。
もう一本を試すと、
またカツンと音がした。

火棚の四隅の紐は全部、切れそうな音がしたのです。

「やっぱ、切れそうな音がするぞ。
だ~っと囲炉裏に落ちて、焼け死ぬといけないから、
石のからとで寝るよ
(やっぱり切れて、だ~っと火の中サ落ちて、
オレ焼けて死ぬと悪いさけ、石のからとサ寝てワ)

娘が

「早く寝ろな、婆」

と言うと、
おとなしくからとの錠前を開けて、入っていった。
娘は、からとに飛びつくと、
がちゃりと錠前を落とした。

山んばの出て来る心配が無くなったので、
娘と万平は相談を始めました。
娘は、実は佐渡島からさらわれて来たこと、
洗濯させられたり仕事でこき使われて、
何回も逃げたがその度に捕まえられたこと、を話した。

逃げたいと万平に頼みました。

二人は山んばをどうするか、知恵を絞った。
家じゅうの鍋、釜や大鍋を持ち出して、
がんがん湯を沸かした。

万平は、石のからとの屋根に登っていって、
きりで穴を開け始めました。
キリキリという音で目を覚ました山んばは、
からとの中から娘に尋ねました。

「あねっこ、あねっこ、これ何の音だや?」

「長者どんのキリギリスの鳴く音だべな」

「長者どんのキリギリス、こういった音すんのか?」

と呟いたが、
山んばは疲れていたせいか、また寝入り込んだ。

万平がきりで開けた穴から、少し湯を注いだとき、
山んばは目を覚まして娘にきいた。

「何だかチョーチョーって、あったかいもの入ってくんな、
何だい、あねっこ」

「ネズミの小便だよ。あったかいものは
(ネスミのしょんべんだべな、ネズミのしょんべんじゃ、あったかいモンだ)

万平が熱湯をどんどん注ぐので、
山んばは我慢できなくなりました。

「熱い、熱い、熱い。あねっこ、早く戸を開けてくれ
(熱いちゃ、熱いちゃ、熱いちゃ。
あねっこ、早く戸、開けてケロちゃ、
開けてケロちゃ、早く開けてケロちゃ)

と、身悶えているようす。
娘は知らぬふりで、落ち着いて言いました。

「あらら、何だや、婆。鍵、どこサやった?」

万平は休みなく湯を沸かして、つぎつぎに穴から注いだので、
さすがの山んばも、
石のからとの中でことりとも音をたてなくなった。

万平は、

「婆さん、死んだんじゃないかな(婆、死んだんでねえべかや)

と言うと、娘は、

“さらわれてきたけれど、
自分は悪いことをしたような気がする”

と、悲しそうに呟いた。

万平がそ~っと石のからとを開けると、
ややや。
山んばは居なくて、
むじなの化け物が死んでいたのです。

娘の顔がぱっと明るくなりました。

「ああ、よかった。おばあさんでなくて、人でなくて。
むじなの化け物なら、
殺したって困る人はいないもんね
(ああ、よかったこと、よかったこと。婆でねくて、人でねくてよかった。
むじなの化け物だら、殺したって困る人いねえ。えかったなあ、万平)

二人は、相談して、
新庄さして帰ることにしました。
万平は仲山で魚屋を開いて商売を始めるつもりです。
その時、娘が
いつもおばあさんが言っていたことを思い出しました。

・・・自分が死んで、おまえが困ったら、
囲炉裏の四隅を掘ってみよ。

二人で灰をずんずん掘ってみると、
何と四隅に銭が埋められていました。
自分の死後、娘が貧乏して困ることがないように、
つつがなく幸せに暮らせるようにと、
化け婆ながら心を配っていたのです。

二人は夫婦になって、
このかねを元手に大きな魚屋を出して、
仲山町で一生、仲良く暮らしました。

このとき以来、
ご祝儀の席に招ばれた客が唄う「新庄節」に、

“四つの隅から金が湧く”

という一節の文句が入るようになったのでした。

次は、しづえさんが唄ってくれた新庄節です。

♪はあ~、この夜[や]座敷はア~、めでた~い座敷、
 四つの隅から 金が湧く♪

どんべすかんこねっけど。

スーちゃんのコメント



【語り手】 斉藤しづえ氏
(大正12年<1923年>3月27日生まれ)
【取材日】 2003年8月21日
【場 所】 山形県新庄市、新庄プラザ。
同席、語り部の大場センさん
【方言指導】 本澤 邦廣氏
(山形県観光物産センター、所長)
【取 材】 藤井和子

しづえさんいわく

「万平魚屋って、今でも仲山町にあんのよ。
オレ(新庄市の)萩野サ嫁に来たとき、
ここで料理つくったわけ」。

もう60年前の遠い遠い日の、
文金島田の華やかな婚礼をふっと懐かしむように、
遠くを見る目をした。

斉藤しづえさんは、
160~170もの民話を暗記している語り部で、
その数といい語り口といい民話の里、
新庄市の第一級の語り手である。
まるで、話の糸車から昔話を紡ぎ出して、
目も綾な反物を織るように、幻想的な語りの世界、
物語の世界を現出してくれる。
飾り気のないぼくとつな語り口は、
何回聞いても飽きが来ない。

5人きょうだいの長女として育ち、21歳で結婚。
ずっと新庄に暮らす。
寝た切りになった舅[しうと]の枕辺で、
毎日のように昔話を聞いて、覚えた。

「そんときは、嫌だったども、
こだなことになるとはなあ」

と述懐する。
昔話を地元のテレビで語ったり、
小学校の民話指導の中心人物として後継者育成にも
力を注いでいて大多忙である。

「おめえ、化け物専門だな」

と、笑いながらいわれているスーちゃんだが、
もう何回お会いしたことか。
2000年5月からのご縁である。

2004年春、弟さんを亡くして、
しばらくは語る気力が出ない、とのことだった。
また、この話の語りの際に、同席した弟子格の大場さんも
2004年秋に急逝した。

お二人のご冥福を祈ります。