次第高[しだいだか]
(島根県江津市波積町)
道下さんは話します。
「ワシが二十歳になって、オヤジと一緒に猟をする頃、
教えてくれたことは・・・」
どんなに獲物が取れても、
最後の一発の弾は残しておけということでした。
次第高という化物がいる、
ということでした。
その化物は、
高いところから声を掛けてきます。
なんか木の上からのような気がするそうですが、
上を向いたらいけない。
仰向けに倒され、のしかかられ、
押さえつけられます。
命を取られるかと思う刹那、
一か八かで残しておいた隠し弾を使って、
最後の一発で仕止める、
倒れていてもいいから、上に向かって撃て、
とお父さんは教えたといいます。
父上は
「松川町の上津井方面には、
ネコマタの中でも親分格の次第高がおるので気をつけねばならん」
と話したそうです。
現に、高津の浜で、
次第高と思われるものを射止めた猟師がいましたが、
それはネコマタだった
というような話もあるそうです。
神楽、鬼神の舞
(昭和4年<1929年>3月11日生まれ)
同席:柳原ヒサコ氏
昔話のネコは
しばしば化け猫として出てくる。
その上、年を降ったネコが化け猫になると
「ネコマタ」という
人間には見えない妖怪になるという。
スーちゃんの妹のマッコちゃんは、
ネコが大好きでペットとして
ミー子(三毛のメス、11歳)と、若い虎猫のオスを飼っている。
ある夜スーちゃんは、
冷蔵庫の大扉が開かれて、
中から一夜干しの生乾きのスルメが引っ張り出され、
冷蔵庫の前に散らかっているのを
見たと思し召せ。
側には何食わぬ顔のミー子が立っていた。
「きゃっ、ミー子は、
ネ、ネコマタになっているよ!」
冷蔵庫を手で開ける、年を降ったネコは気味が悪い。
ショックで頭がくらくらした。
スーちゃんはネコマタの昔話を
しっかり覚えているんだもん。
何事かと駆けつけたマッコちゃんは、
「扉が甘くなっていたのよ」
と、我が事のように弁解したが、
何といってもネコ好きの弁解は甘い甘い。
スーちゃんは、次の日は道下氏の教えてくれた
「ネコマタの見分け方」を思い起こして、
一心にミー子の行動を観察しましたね。
つまり・・・
“ネコが歩くときには微妙に自分の身体を
襖[ふすま]に当てながら歩くが、
ネコの中でも年寄りのネコが
障子や襖[ふすま]を伝い歩きしないで、
開け放した障子と障子の間の、
まん中を歩くようになった時には、
人間の目では見えないがネコマタになっている”
というのである。
ミー子は、スーちゃんが見張っていると、
こちらの心を知ってか知らずか
いつものオツに澄ました顔で、
襖に寄り添って歩いた。
だが、本当のところ、
ネコマタになっているかどうかは分からない。
「ネコマタ」がいるのなら、
「犬マタ」だっているんでしょ、
とマッコちゃんは言った。
イヌって妖怪になるのかしら?