キジムナーの仕返し

(沖縄県)

ある時、ひとりの男が漁をしていると、
キジムナーがやってきて尋ねた。

「あなたは、何をしているのですか」

「魚を取っているさ」

「私が魚を取ってあげよう。二人、友達になろう」

「いいよ」

というと、キジムナーが、

「ザルを持ってきなさい。そこに魚を入れてあげるから」

と言った。
ザルを抱えて2人が海に入るとき、
キジムナーは念を押した。

「シーはしても、プーはするなよ(おしっこはいいが、おならは駄目だぞ)」。

キジムナーは、
“へ”が大嫌いなのである。

「プーをしたら手を放す。
そうしたら、あなたは溺れてしまうよ」

と注意した。

沖縄の夕日と海岸線 写真
沖縄の夕日と海岸線 (財)沖縄観光コンベンションビューロー

たちまちザルは魚で一杯になった。

「また、明日ね」

とキジムナーは言って、二人は別れた。

キジムナーは山のように魚を取ってくれるが、
判で押したように同じ時刻に毎晩やってくる。
夜起きて、亭主の帰りをじっと待っている女房は、
寂しくてたまらないわけ。

(ス-ちゃんは、こういうのキジムナー未亡人と言うのでしょう、と思ったさ。)

この女房は考えた

...何とかしてアレと縁を切らなくちゃ...

それにしても毎晩、どこからやって来るのかしら?

夕暮れになって外の方を見張っていると、
庭先のガジュマルの根っこからす~っと姿を現わした。

“あ、分かった。あそこが住処[すみか]なんだ”

彼女は、二人が海に行くのを見送るやいなや、萱を集めた。
大木の根元に積み、火をつけると、
ガジュマルを焼いてしまった。

住処が無くなったので、キジムナーはどこかへ行ってしまい、
もう二度と誘いに来なくなった。

ところが...

何年か経って、その男は隣村へ用事が出来て出かけた。
昼間は、人間にはキジムナーの姿は見えないので、
キジムナーを追い払ったいきさつを得意になって、
とくとくとしゃべった。

それをすぐ隣りで聞いていたキジムナーは、
赤い顔が青くなるほど腹を立てた。

“友達になって、魚をあんなに取って金持ちにしてやったのに、
家を焼いたのはこいつだったのか! 許さん”

男が家に帰ると、
我が家は丸焼けになって跡形もなかった。

...キジムナーが仕返しをしたわけさ。

山ガジュマルの巨木(与那国島) 写真
山ガジュマルの巨木(与那国島)

スーちゃんのコメント



【語り手】 山本川恒氏(1909年10月15日生まれ)
【取材日】 2003年5月19日
【場 所】 沖縄県名護市 山本川恒氏自宅
【取 材】 藤井和子
沖縄伝承文化センタースタッフ(新城氏)

川恒さんは、キジムナーの昔話をするときには必ず言う。

「アレは必ず仕返しをするそうだ」

キジムナーは真面目できちょうめん、
自分が“こうあるべきだ”と思うことは、何であれ正しいと思う。
自分が正しいと思うとき、他人を責めたくなるはずだが、

「今、自分はキジムナーの心、になっていないか」

と、一拍あいだをおいて見直すと、
すうっと楽になるかもしれない。

スーちゃんの友人から聞いた印象深い話。
幼ない娘がいたずらをしたので、
腹が立ってぶっ叩こうとして手を挙げたら、
その子が「ママは、今、悪魔のこころ!」といったそうである。
その日、この子は悪魔のことを幼稚園で習ってきたらしい。

また、もしキジムナーに親しい友達が居れば、
ワンパターン思考のキジムナーに向かって、

「キミ、××という別の考え方もあるよ」

とやんわり、アドバイスをしたことだろう。

こうなると、昔話もなまなましく迫ってきて、
含蓄があり面白い。