沖縄の山国、西原町のキジムナー
金城春子さんが育ったのは山また山の西原町幸地でした。
海が遠いので、人を海に連れ出すというキジムナー話は
聞いたことが無かったそうです。
今回、実家のお母さまがよく話してくれたキジムナー話を聞かせてくれました。
結婚後、南風原[はえばる]町に住んで、
魚を取るキジムナーの話をはじめて知ったといいます。
キジムナーは、
ガジュマル、デイゴ、ウスクギの大木に棲んでいるよ、
ということは昔から聞かされていた。
夜な夜な出て来るのは、
4~5歳位の小さな赤ガンターグワ(赤い髪をした子)だけど。
女の人には男のキジムナーが、
男には女のキジムナーがやってくる。
この子は百人力の力持ちなうえ、
床からでも戸の隙間からでも、どんなに厳重に戸締りをしても
す~っと入って来る。
自分の行きたいところに人を連れ回して、山の中、墓場
...一晩中遊ぶわけね。引っ張り回すが、
殺すことはしない。
もう亡くなった母親がよく話していたキジムナーのこと。
キジムナーの姿は人間には見えない。
人の目を押さえるので、
襲われた人は横に誰かがいても見ることが出来ないし、
声を立てることも出来ない。
「おっかあ、私はここに居るさ、どうして見えないんね」
と思っても、声は出ない。
キジムナーは、おならとかうんことか、汚いものが大嫌い。
母親は、便所で次のような
キジムナー払いのまじないをしていた。
便所(昔のは、水洗式ではなく、ポットン便所でしたね)にまたがらないで、
足を揃えてこちらから向こう側に跳びながら、
「春子オ、春子オ、春子オ」
と三回叫ぶ。
次に、股を下から覗いて春子オと
名前を三回呼ぶ。
そしたら、キジムナーはびっくりして手を放すので、
自分は声を出せるようになる。
「は~い、おかあ」
って言うさ。
「くまんかいうんどう(ここに居るよ)」。
「そこにいるのに、何で今まで返事しなかったね」
と母親の声がする。
今の今まで、春子さんには、母親の声が聞こえず、
すぐ近くにいるのに姿も見ることが出来ない。
これがキジムナーの力、という。
「キジムナーにウサットウーさ(おそわれているさ)」
と、こういうわけ。
日頃の生活でキジムナーのいることを信じ、
共生しているような話である。
春子さんは、キジムナーを見たことがないが
母上は見たことがあるという。
また母上は
「昔はね、キジムナーに襲われた人がよくいた。
誰かが居なくなると
“あれはキジムナーにウサットウさー(襲われているよ)”」
と話していた。
その人がどこにいるか、みんなで村中探して歩いた。
キジムナーについて、誰もが言っていることは
仕返しをすることと、寝ている人に金縛りを掛けることである。
よいことをしてくれる反面、悪さもひどい。
寝ている人が蒙る金縛りについては、
北谷[ちゃたん]町の阿波根昌栄[あわごんしょうえい]氏は
次のように話した。
...キジムナーは、夜更けに
家の隙間のどこからでも入って来ます。
男と女がいます。
人間の女性のところには男のキジムナーがやってきて、
大きなアレで口をふさぎ、
男の人には女のキジムナーがお出ましで、
おっぱいで口を塞いでモノが言えないようにするのです。
つまり、その~、大きなアレとはタヌキの八畳敷のことである。
民話にも「タヌキの八畳敷」の話は
つい笑ってしまう滑稽なのがありますがね。
そのうち取材をしたいと思う。
また、玉城[たまぐすく]村の亀谷長光[かめやちょうこう]氏は、
キジムナーについて次のように興味深いことを話した。
...寝ている時に抑えられたら、
動けないしモノも言えなくなります。
また、キジムナーが海に行くときは、
ちょうちんみたいなのを灯して歩きます。
一人では行かないで4つも5つも一緒になって行くらしいよ。
キジムナーがグループで行動する話は、初めて聞く。
キジムナーは、夢の中に出て来る
夢魔のような超自然的な性格と、
それでいて生活の臭いを濃厚に漂わした妖怪である。
沖縄伝承文化センタースタッフ(新城氏)