鬼餅の由来

(沖縄県)

この餅は、月桃(げっとう、沖縄ではサンニンと呼ぶ)の葉で
くるんで蒸したもの。
サンニンには驚くほどの生命力があることから、
子どもの成長を願って、餅を包む葉として使われる。
この葉は北谷町では村起こしの産物として、
和紙、カステラ、化粧品などさまざまな商品開発に応用されている、という。

月桃の葉 写真
月桃の葉を摘む。切り口からよい香りが立ちこめた。

金城春子さんは、開け放したモダンな家の、風のよく通る居間で話した。

首里の金城[かねぐすく]に、兄と妹が住んでいた。
両親が亡くなって妹は嫁に行き、
しばらくして兄は

(一人になったから)山で暮らそうねえ」

と言って、一人で山に入ったらしいよ。

初めは、山羊・ニワトリを捕まえては食べていたが、
だんだん味に飽きてきて、
人の子どもを煮たり焼いたりして食べ始めた。
人間の味はちょうど塩加減がよく、
一度食べたらもう止められなくなった。

近所の村を荒して、幼い子を連れて行くので、
親たちは自分の子どもが狙われたら大変だ、と彼を追い払った。

とうとうたどり着いたのが大里村の西原という所だった。
ここで人が住めるほどの立派なガマ(洞穴)を見つけて、
やっぱり同じことを繰り返した。

もう子どもでは間に合わなくなって、
若いねーねーを誘拐して、食べるようになった。

ある日、妹は村人にこう言われた。

「あんたの兄さんは、鬼になったさあ。人を喰っているらしいよ」。

彼女は、えっと思ったが、
この世でたった一人のきょうだいである。
自分の目で確かめるまでは信じたくないと、
急いで、西原のガマへ出かけた。

兄は留守であったが、大鍋がぐつぐつ煮えていた。
何の気なしに蓋を取ってみると・・・
入墨をした女の人の指が出てきた。

―― ああ、やっぱり兄さんは、
本当にね、人を殺して食べていたんだ。鬼になっていたんだ。

―― 頭がくらくらした。
倒れ込むほどショックを受けた。
帰ろうとした時に、兄が戻ってきて、

「美味しいものを炊いているから、食べていかないか?」

と言った。

だけど、見てしまったさね。

「兄さん、餅(ムーチー)が好きだったよね、
今度、作って持って来るから一緒に食べようねえ」

とごまかして、逃げて帰った。

たった一人の血を分けた兄が鬼になっている、
自分の兄弟でなかったら、どんなによかったか。

どうして、どうして、人を喰う鬼なんか・・・に。

妹は自宅に戻ると、次々に餅をこしらえた。
頭は真っ白になったままだが、
思いは一つ。

・・・これ以上、どうして人に迷惑を掛けられようか。

涙をこぼしながら、鬼を退治しよう、
肉親の自分に出来ることはそれだけだ、と決心した。

モーアーサーをこねて混ぜ込んだ。

・・・春子さんは、モーアーサーの説明をした。
それによると、海に昆布、ワカメがあるように、
沖縄では雨の後に、山でもアーサーが採れる。

子供の頃、戦後の食糧難だったが、これをね、いっぱい採ってきて、
メリケン粉のように粉にして食べたよ。

昆布類は胃の中に入ると膨らむから、
食べ過ぎると気分が悪くなるじゃないですか。

そのモーアーサーを混ぜ込んだのね・・・ 

どっさり餅の中に混ぜて餅を作って、兄を訪ねた。

「兄さん、今日は天気がいいさね。海でも見ながら食べようよ」

と、下心を隠して誘った。
兄は疑うこともなく、妹についてきた。

今の大里公園からは、
与那原の海がまぶしいほどの陽光を浴びて広がっている。
妹は崖まで兄を連れてゆき、崖っぷちに座らせた。

兄は大好きな餅、美味しい餅だから、ハウハウ食べるわけ。
食べて食べて・・・もう気が変になるほど
(鬼になっているから、初めから変になっているか)腹に入れた。

腹は、だんだん膨れてきた。
それでも食べるものだから、
腹はパンパンに膨れて、ついにパーンと破裂した。

苦しさに悶えながら、崖から落ちて死ぬわけさ。

それからは、彼は幽霊になって出て来るようになった。
ムーチー(餅)の匂いがすると、
食べたくてたまらなくなって現れる。

餅を作っていると

“アノ鬼がやってくるよお、何とか家に入らないようにしよう”

と、みんなは鬼の足を焼くことを考えた。
鬼の足を作って家の四隅に置き、
ムーチーのゆで汁をこの足にかける。
ゆで汁をかけながらまじないを唱える。

「鬼のひさ(足)焼き焼き、鬼のひさ焼き焼き、
鬼のひさ焼き焼き、鬼のひさ焼き焼き」

こうすると鬼は退散する、
と信じられている。
まじないをやらないと鬼は餅に触れ、次の一瞬にはすっかり腐って、
食べられなくなる、とされた。

鬼餅(ムーチー) 写真
市販の鬼餅(ムーチー)
今では、どこででも買うことが出来る。

まじないが済めば、
子どもの年の数だけ餅を縄で縛って、
目刺しの縄のれんのようにして
柱に吊した。
おやつになるわけさ。

餅は、子どもの大きな楽しみの一つ。

年上の兄弟は自分よりよけい貰えるので、
大抵、けんかが始まるけどね(笑い)
年は越すことが出来ないので、子ども心に羨ましく思ったものだった。

もう50年も昔のことさね。

とうび

【語り部】 金城[きんじょう]春子氏 (1941年7月13日生まれ)
【取材日】 2004年5月16日
【場 所】 南風原町 金城氏自宅
【取 材】 藤井和子

山入端さんの鬼餅の由来

「鬼餅の由来」の話は、あちこちで類話がありますが、玉城村[たまぐすく]の山入端[やまいりは]時さんから伺った話は次のようでした。

前段は、同じですが、鬼になったのは弟で、姉が退治します。

姉さんが餅を食べようと言って、崖っ渕の岩場に弟を誘う。

彼女は、「ホーハイ、ホーハイ」とかけ声を掛けながら、
着物の裾をめくり、「姉さんには、口がもう一つあるさ」という。

いぶかしげに弟が覗き込んだ途端、
姉は「ホーハイ、ホーハイ」と叫んで、
力いっぱい、弟を海に突き落とす。

「姉さ~ん、ね~さ~ん、どうして(こんなことをするの)?」

と、弟の哀切な声がこだまして、その身体は海に消えた。

山入端(やまいりは)時氏 写真
山入端(やまいりは)時氏

【語り部】 山入端[やまいりは]時氏
【取材日】 2003年3月5日
【場 所】 玉城村喜良原、朝日の家にて
コーディネーター 玉城村立公民館舘長吉田美由紀氏
【取 材】 藤井和子、
沖縄伝承文化センタースタッフ(新城氏)

スーちゃんのコメント

沖縄や周りの離島では、
12月8日に写真のように細長い餅を造り、
こどもの成長を祈願します。
沖縄に伝わる鬼餅行事の由来には
上のような昔話がありました。

人肉食鬼の話は「なぜ人を殺してはいけないか」
にも関わる深い問いかけです。
皆さんもお考えを投稿してください。
お待ちしています。

人間を殺すこと、人肉を食すること、
双方とも“もはや人間ではない”ことを象徴しています。
ここでは、そのような
“人間であることの尊厳を喪失した存在”
昔話の中で“鬼”と呼んでいるのです。

一転して、話は軽くなりますが、巷間では、
“人肉はざくろの味”と言っていますが、
どうでしょうね。

「スーからのお願い」

沖縄の「カジマヤーのパレード風景」の写真を、
お持ちの方が、いらっしゃいましたら、
妖怪通信の方に、お貸しいただければ幸いです。
尚、ご連絡は、こちらのアドレスまで、
よろしくお願いします。